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肺動静脈奇形 ― 脳梗塞・脳膿瘍のリスクを減らすカテーテル治療
肺動静脈奇形(PAVM)は、肺の動脈と静脈が、通常の細い血管を通らずに直接つながっている状態です。息苦しさなどの症状がなくても、「脳梗塞」や、脳に感染が起きて膿がたまる「脳膿瘍」の原因になることがあります。カテーテル塞栓術は、異常な血液の通り道を内側からふさぎ、こうした合併症のリスクを減らす治療です。胸を切開せず、肺を切除せずに行えることが特長です。
なぜ、肺の血管の異常が脳に影響するのですか?
通常、血液は肺の毛細血管という細い血管を通り、酸素を受け取ってから全身へ戻ります。毛細血管には、血液中の小さな血のかたまりや細菌などを捕らえるフィルターの働きもあります。
PAVMでは、一部の血液がこのフィルターを通らずに流れます。そのため、血のかたまりや細菌などが脳へ届き、脳梗塞や脳膿瘍を起こすことがあります。また、血液中の酸素が少なくなり、息切れにつながる場合もあります。まれに異常血管から出血し、血を吐く「喀血」や、肺の周囲に血液がたまる「血胸」を起こします。
症状がなくても、治療を検討する理由
PAVMは、健診や別の病気のCTで偶然見つかることがあります。自覚症状がないことと、合併症の危険がないことは同じではありません。治療には、今ある息切れなどの改善に加え、将来の脳梗塞や脳膿瘍を予防する目的があります。
すべての病変をすぐに治療するわけではありませんが、CTでPAVMを指摘された場合は、専門医による治療適応の評価をお勧めします。
どのような場合に塞栓術を行いますか?
CTなどで、異常な血管へ流れ込む動脈(流入動脈)の太さ、血管の形や数、病変の位置を確認します。症状、脳梗塞・脳膿瘍や出血の既往、増大の有無、心臓や肺の状態を踏まえ、安全にふさげる病変かを判断します。
以前は流入動脈が3mm以上のものが治療対象と言われていましたが、3mm未満でも合併症を起こすことがあるため、「3mmより細ければ治療不要」とは判断しません。一方、非常に細い血管や広範囲の病変では、治療の難しさと期待できる効果を比較し、経過観察や段階的な治療を選ぶ場合があります。
カテーテル塞栓術の方法
通常は局所麻酔を行い、必要に応じて鎮痛薬や鎮静薬を併用し、痛みや不安を和らげます。
脚の付け根の静脈から細い管(カテーテル)を入れます。右心房・右心室を通って肺動脈へ進め、造影剤とX線画像で異常な血管を確認します。
異常な血管のつながりや、その流入路に金属コイルや血管塞栓用プラグを置き、血流を遮断します。コイルは細い金属を巻いたもの、プラグは血管を内側からふさぐ専用の器具です。血管の形や太さに応じて選びます。治療終了時にカテーテルを抜き、コイルやプラグは体内に残します。
病変が複数ある場合などには、治療を数回に分けることがあります。
塞栓術のメリット
肺を切除せずに治療できます
病変を含む肺を切除する手術と異なり、血管の内側から異常な通り道を閉じる方法です。正常な肺をできるだけ残しながら治療できるため、塞栓術で治療可能なPAVMでは一般に優先して検討されます。
傷が小さく、体への負担を抑えられます
胸の切開を伴わず、通常は全身麻酔を使わずに行えます。日本の入院データを用いた比較研究では、塞栓術は手術より治療後の入院期間が短い傾向がみられました。ただし、低いながらも追加治療の可能性はあります。
血管の構造などから塞栓術が難しい場合や、塞栓術で十分な効果が得られない場合には、手術が適することもあります。病変と全身の状態に合わせて選択します。
治療の効果と限界
異常な血流を減らすことで、脳梗塞・脳膿瘍などのリスク低下が期待できます。血液中の酸素が少なかった方では、酸素の値が改善することもあります。もともと症状がない方は、治療後に体調の変化を感じない場合もありますが、予防を目的とする治療の意義は変わりません。
一度ふさいだ血管が再び開く「再開通」や、別の血管を介して病変へ血液が流れ込むことがあります。小さな未治療病変が大きくなる場合もあるため、治療後も検査を続けます。必要に応じて追加の塞栓術などを検討します。
痛みや合併症について
針を刺した部位の痛み・内出血のほか、治療から数日後に胸の痛みが出ることがあります。ほとんどの場合は一時的な軽い共通で、鎮痛薬などで対応できることが多いです。
そのほか、造影剤によるアレルギー、血管の損傷や出血、感染、不整脈などがあります。まれに、空気・血のかたまり・塞栓器具などが全身の血管へ流れ、脳梗塞などを起こす可能性があります。予防を目的とする治療にも、このようなリスクがあるため、事前に個別の利点とリスクをご説明します。
治療後の生活と通院
治療後は、針を刺した部位からの出血を防ぐため数時間安静にし、その後、状態を確認して歩行を再開します。安静解除は、仕事や運動をすべて再開してよいという意味ではありません。入院は数日ですが、仕事・運動・重い物を持つ作業の再開時期は、症状と治療内容に合わせてご案内します。
治療後の外来では、画像検査などで治療効果や再開通の有無を確認します。治療後おおむね6か月前後に評価することが一つの目安ですが、それ以前の診察も含め、検査の時期と方法は個別に決めます。その後も長期的に経過をみます。
治療後も知っておきたい生活上の注意
歯の健康と、歯科処置前の相談
口の中の細菌が血液に入る機会を減らすため、日々の歯みがきと定期的な歯科受診を大切にしてください。抜歯や歯石除去など、細菌が血液に入る可能性のある処置では、事前の抗菌薬が推奨されます。PAVMがあることを歯科医に伝え、主治医と処置前に相談してください。抗菌薬を毎日飲むという意味ではありません。
点滴・注射を受けるとき
点滴や静脈注射を受ける際は、医療者にPAVMと塞栓術の既往を伝えてください。点滴内の空気が全身へ流れるのを防ぐため、医療者側で空気の混入に十分注意する必要があります。
スキューバダイビング・妊娠について
圧縮空気を使うスキューバダイビングは避けることが推奨されます。塞栓術後も自己判断で再開しないでください。
妊娠中はPAVMに伴う合併症の危険が高まるため、妊娠を希望する場合は、できれば妊娠前にご相談ください。妊娠が分かった場合も早めに連絡し、産科と専門医で検査・治療の必要性と時期を検討します。妊娠中だから一律に治療できないわけではありません。
遺伝性出血性毛細血管拡張症との関係
PAVMは、遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT、オスラー病)という、血管の異常ができやすい体質に伴うことがあります。鼻血を繰り返す、唇や舌・指などに小さな赤い点がある、家族にも同様の症状がある場合はお伝えください。必要に応じて他の臓器の検査やご家族の検査についても相談します。PAVMがあるだけでHHTと決まるわけではありません。
よくある質問・受診のご案内
Q.血管をふさいで、肺は大丈夫ですか?
酸素を受け取る正常な細い血管を迂回している通り道をふさぎ、血液が正常な肺を通るようにする治療です。病変と周囲の血管を確認し、正常な肺への影響をできるだけ抑えて行います。
肺動静脈奇形(肺動静脈瘻)の治療について相談する
受診時は、紹介状、CTなどの画像データ、過去の塞栓術の記録があればご用意ください。治療適応が未確定の段階でもご相談ください。
患者さん
医療機関
本ページは一般的な医療情報を提供するものであり、個々の患者さんの診断・治療方針を決定するものではありません。