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IVR/放射線カテーテル治療のご紹介

IVR(Interventional Radiology、画像下治療・放射線カテーテル治療)は、カテーテルや針を用いて画像ガイド下に行う低侵襲治療であり、小児から高齢者まで全身の多岐にわたる疾患が対象です。がん診療、血管疾患、腹部臓器疾患、救急医療など様々な分野で需要が高く、現在では不可欠な治療選択肢となっています。当科では様々な疾患に対してIVR/放射線カテーテル治療を行っております。まずはお気軽にご相談下さい。救急疾患の場合は24時間体制で対応しており、救命救急センターを通してご相談いただく体制になっております。

悪性腫瘍(癌や肉腫)

• 肝細胞癌:
手術不能例に対する肝動脈化学塞栓術(TACE)が標準的に行われる局所療法のひとつです。カテーテルを肝動脈まで進めて腫瘍を栄養する動脈に抗がん剤を注入しつつ塞栓し、腫瘍の血流を遮断し壊死させます。

肝細胞癌_fig_1

• 転移性肝癌:
肝転移巣に対する肝動脈化学塞栓術(TACE)や動注リザーバー留置術(肝動脈内に抗がん剤を持続注入するためのポート設置)が行われます。

• 腎癌:
手術前に腫瘍の栄養動脈を塞栓して出血を減らす術前塞栓術や、手術不能例に対するラジオ波焼灼が行われます。ラジオ波焼灼療法(RFA)ではCTガイド下に腫瘍へ針を刺入して焼灼し、腫瘍を壊死させます。全身麻酔を必要とせずに治療が行え、高い局所制御率を示します。

• 骨腫瘍・軟部腫瘍:
脊椎腫瘍などの術前塞栓術により腫瘍への血流を遮断し、手術時の出血量を減らすことがあります。四肢や体幹の骨・軟部の大型腫瘍でもIVRによる動脈塞栓やラジオ波焼灼で症状緩和や切除支援を行います。ラジオ波焼灼療法(RFA)は鎮痛薬で制御が難しい腫瘍性疼痛に対しても高い効果があります。

• その他の悪性腫瘍:
手術や全身化学療法が難しい進行例に対し、腫瘍に栄養する動脈へカテーテルを留置して抗がん剤を動注する治療(動脈内注入療法)を行います。これにより腫瘍局所に高濃度の薬剤投与が可能です。

• 術前塞栓:
切除予定の腫瘍や血流が豊富な臓器を手術する前に、カテーテルで手術領域の動脈をあらかじめ詰めておく処置です。これにより手術中の出血量を大幅に減らし、手術時間の短縮と安全性向上が期待できます。多くの場合、血流が豊富な腫瘍や血流の多い領域の病変が対象となります。

血管系の疾患

• 内臓動脈瘤・末梢動脈瘤(腎動脈瘤、脾動脈瘤、肝動脈瘤、腸間膜動脈瘤など):
動脈硬化や血行動態の変化などが原因で動脈にこぶができた状態です。部位にもよりますが、瘤径2cm以上になると破裂リスクが高まるため、カテーテルによるコイル塞栓術で瘤を詰めるか、場合によってはステントグラフト内挿術で瘤への血流を遮断します。破裂すると致死率が高いため、予防的治療が推奨されます。

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• 動静脈奇形(AVM):
全身各部位に発生しうる先天性または後天性の異常血管吻合です。当科では脳以外の動静脈奇形に対する血管内治療に対応しています。肺動静脈奇形(PAVM)ではチアノーゼや脳梗塞・膿瘍の原因となり、外科的切除やコイル塞栓術の適応となります。当科では、コイル塞栓術による治療を行っております。腎動静脈奇形では腎出血や血尿、心不全のリスクがあるため、カテーテルを腎動脈まで進めて液体塞栓物質やコイルで閉塞させます。骨盤部など他の部位のAVMについても同様の方法で塞栓術を行い、症状の改善や破裂予防に努めます。

• 透析シャント不全:
血液透析用シャントの狭窄・閉塞ではシャント血流低下や閉塞により透析困難となるため、シャント静脈に対する経皮的血管形成術(シャントPTA)で狭窄部を拡張します。必要に応じてステント留置も行い、透析シャントの長期開存を確保します。当科では透析シャント外来も行っております。

• 静脈奇形:
先天的な静脈奇形(静脈性血管奇形)に対しては、硬化療法(硬化剤注入)や塞栓術により肥大・拡張した異常静脈網を閉塞させます。これにより患部の疼痛や腫脹の軽減、拡大抑制を図ります。

• 腎動脈狭窄症:
動脈硬化などで腎動脈が狭くなると腎血流低下により腎血管性高血圧を生じます。IVRではカテーテルで腎動脈の狭窄部にバルーンを送り込み拡張し、ステント留置することで血流を改善します。これにより高血圧のコントロールや腎機能悪化の予防が期待できます。

• 精索静脈瘤:
男性の精索静脈の拡張(精巣静脈瘤)もIVRの治療対象です。カテーテルを用いて精巣静脈をコイル塞栓し、逆流する静脈血流を遮断することで精巣機能の改善(不妊症対策)や疼痛緩和を行います。

• 門脈圧亢進症に伴う合併症(肝硬変などによる):
門脈圧上昇による側副血行路の発達で胃静脈瘤が生じると、破裂した際に大量出血する危険があります。IVRではバルーン下逆行性塞栓術(B-RTO)により胃静脈瘤やその原因となるシャント血管を閉塞し、出血リスクを低減します。同時に側副血行路を閉塞することで門脈血が肝臓に流れるようにし、肝性脳症の改善も図ります。また、脾機能亢進による血小板減少には部分的脾動脈塞栓術(PSE)を行い、脾臓の一部を梗塞させて血小板減少を是正するとともに、門脈圧低下効果も得られます。これらのIVRにより、門脈圧亢進症の重篤な合併症に対処します。

門脈圧亢進症に伴う合併症_fig_4

• 上大静脈症候群(SVC症候群):
肺がんなど縦隔腫瘍による上大静脈圧迫狭窄に対し、静脈ステント留置による血流再建を行います。上大静脈の閉塞による顔面・上肢の浮腫や静脈怒張を速やかに改善し、呼吸困難感を緩和します。

• Budd-Chiari症候群(肝静脈閉塞症):
肝静脈の閉塞により肝うっ血や腹水をきたす難治疾患です。画像ガイド下にカテーテルで閉塞部位の再開通術やステント留置を行い、肝静脈の血流を回復させます。これにより門脈圧の低下や腹水の軽減、肝機能改善を期待します。

• 大動脈ステントグラフト留置術後のエンドリーク:
腹部大動脈瘤にステントグラフト治療を行った後、瘤の分枝血管を介して瘤内に逆流する血流(エンドリーク)が持続する場合があります。エンドリークが遷延し瘤径拡大傾向がある際には、カテーテルによる分枝血管の追加塞栓や、瘤への直接穿刺塞栓術で瘤内圧を低下させ破裂予防を行います。

救急疾患(急性出血など)

• 外傷性出血:
交通事故や転落事故などによる内蔵破裂、骨盤骨折に伴う動脈損傷など、外傷性の動脈性出血は緊急IVRの適応となります。造影CTで出血点を特定した後、カテーテルを損傷血管まで進めてコイルや塞栓物質で止血します。骨盤内臓器損傷や骨盤骨折による出血でも、IVRにより短時間で出血コントロールを行い、命を救えるケースが多くあります。当院では24時間365日速やかに緊急カテーテル治療が行える体制を整えております。

外傷性出血_fig_5

• 消化管出血:
消化性潰瘍、膵炎、憩室出血、消化管腫瘍など様々な原因による消化管出血に対し、まず内視鏡的止血が試みられます。しかし内視鏡で止血困難な領域・機序の出血例ではIVRが活躍します。造影下で責任血管を特定し、カテーテル塞栓術により止血を図ります。外科的止血に比べ侵襲が少なく、高齢者や重症患者にも施行可能です。

• 術後出血:
手術直後や術創部位からの出血(術後出血)にもカテーテル塞栓術が有効です。再手術は患者負担が大きいため、IVRによって出血血管のみを塞栓し止血します。

• 腹腔内・胸腔内出血:
臓器の自発破裂(肝腫瘍破裂、脾破裂など)や血管損傷による腹腔内出血もIVRの緊急適応です。開腹せずカテーテルで直接出血源を塞栓でき、DICを伴うような重症例でも速やかに止血可能です。特に腫瘍破裂(例:肝細胞癌や腎血管筋脂肪腫〈AML〉の破裂など)ではカテーテル塞栓が第一選択となります。

婦人科・産科疾患

• 子宮筋腫:
主な治療法は、外科的手術療法、ホルモン治療、子宮動脈塞栓術(UAE)があります。当科では、子宮動脈塞栓術(UAE)を施行しております。足の付根の動脈から細いカテーテルを子宮動脈に挿入して塞栓することで筋腫へ栄養供給を遮断し、お腹を開くことなく筋腫の縮小・症状改善効果が得られます。

子宮筋腫_fig_6
子宮筋腫_fig_7

• 産科危機的出血(産後出血など):
分娩時・分娩後の大量出血に対し、緊急の子宮動脈塞栓術が適応となります。子宮弛緩出血、前置胎盤・癒着胎盤からの出血、産道裂傷などが主な原因で、カテーテル塞栓による止血の成功率は90%以上と報告されています。必要に応じて手術前に大動脈バルーンの併用なども行い、母体の救命に寄与します。

• 骨盤内動静脈奇形(AVM):
子宮や骨盤の血管奇形に対してもIVR治療が行われます。カテーテルを用いたコイル塞栓や硬化剤注入により異常血管網を閉鎖し、出血症状や疼痛のコントロールを図ります。婦人科領域では、出産後に子宮AVMが生じる例などにも対応が可能です。

その他の疾患

• 慢性疼痛に対する神経ブロック:
進行がんの痛み緩和を目的に腹腔神経叢ブロックなどのIVRも行われます。例えば膵臓がんによる難治性腹部痛に対し、透視下に腰部から針を刺入して腹腔神経叢にアルコール等を注入し痛みを和らげます。

• 椎体圧迫骨折:
骨粗鬆症や脊椎転移で生じた椎体骨折による激しい痛みに対し、椎体形成術(骨セメント注入術)が有効です。透視下に骨折椎体へ経皮的に針を挿入し、骨セメントを注入して椎体を安定化させることで、速やかかつ高い除痛効果が得られます。

椎体圧迫骨折_fig_8

• 関節炎・慢性関節痛:
変形性関節症などによる難治性の慢性疼痛に対し、近年運動器カテーテル塞栓術(TAME)が行われています。肩や膝などの関節を栄養する動脈を選択的に塞栓し、滑膜の炎症や増殖を抑えることで痛みを軽減する治療法です。切開手術を伴わないため負担が少なく、慢性的な関節痛の新たな治療選択肢となっています。保険適応外のため、自費診療となります。

• 画像ガイド下生検:
原因不明の病変や腫瘍に対する経皮的生検もIVR領域です。CTやエコーで狙いを定め、体表から病変部に細い生検針を挿入して組織を採取します。これにより開腹せずに確定診断に必要な組織標本が得られ、迅速な診断と治療方針の決定に繋げます。

画像ガイド下生検_fig_9

• 膿瘍・嚢胞ドレナージ:
肝膿瘍や腎膿瘍、膵仮性嚢胞など液体が溜まった病変には経皮的ドレナージを行います。局所麻酔下に皮膚から患部へドレーン管を留置し膿や液体を体外に排出することで、感染のコントロールや症状の改善を図ります。外科的ドレナージに比べ侵襲が小さく、全身状態の悪い患者にも安全に施行できます。

• 術前門脈塞栓:
肝臓を大きく切除する前に、カテーテルで切除予定側の門脈枝を詰めて血流を残る肝臓へ振り向ける処置です。残る肝臓が術前にしっかり肥大・強化されるため、手術後の肝不全リスクを下げられます。局所麻酔下で行える低侵襲治療で、通常は数日間の入院で退院可能です。

• リンパ漏(乳び胸・乳び腹水など):
特発性に加え、外傷や術後に生じたリンパ管からの漏出(乳び漏)に対して、リンパ管造影および塞栓術も実施されます。足のリンパ管に造影剤を注入して漏出部位を特定し、塞栓物質でリンパ管を閉鎖させることで乳びの漏出を止めます。難治性の胸水・腹水コントロールに寄与する高度なIVRです。


以上のように、IVR外来では多岐にわたる病態に対して、極めて小さな傷で高い治療効果を得ることが出来ます。従来は治療が難しかった領域にもIVRが適用されることで、患者さんの負担軽減と治療成績の向上が実現しています。
画像引用元:日本IVR学会パンフレット(転載許諾済)