メニューにジャンプコンテンツにジャンプ

トップページ > 診療科・部門 > センター > 腹膜センター > 診療のご案内

診療のご案内

腹膜センターでは、腹膜悪性疾患に対する診療を疾患・治療内容ごとに専門的に行っています。各分野に精通した医師が診療を担当し、より高度で専門性の高い医療を提供しています。

疾患別専門診療

腹膜偽粘液腫(Pseudomyxoma Peritonei)

腹膜偽粘液腫(PMP)は、主として虫垂に発生した粘液産生腫瘍が破裂し、腫瘍細胞を含むゼリー状の粘液が腹腔内に広がる病態です。一般的ながんのように血行性やリンパ行性に遠隔転移することは少なく、腹腔内で粘液が徐々に蓄積しながら進行する点が特徴です。進行は比較的緩徐である一方、放置すると腹部膨満や腸閉塞、栄養障害など重篤な症状を来します。
当センターでは、CTなどの専門的画像診断を用いて病変の分布や進展度を正確に評価し、治療方針の決定に役立てています。豊富な症例経験をもとに、最適な手術計画とCRS+HIPECを実施しています。病勢評価・手術・術後管理まで包括的に行い、生活の質と長期生存の向上を目指しています。

標準治療と治療方針の考え方

腹膜偽粘液腫に対しては、全身化学療法の効果は限定的であり、根治を目指す治療の中心は外科治療と考えられています。特に、肉眼的に確認できる腫瘍および粘液を可能な限り除去する完全減量手術(cytoreductive surgery:CRS)と2.5mm以下の病変まで死滅させることができると言われている術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)の併用が基本となります。

  1. 本邦における減量手術と腹膜切除の位置づけ
    従来、本邦では、症状の軽減や腫瘍量の減少を目的として、粘液や腫瘍を部分的に除去する減量手術が行われてきました。しかしこの方法では、腹膜全体に存在しうる病変を完全に切除することができません。
    一方、腹膜切除(peritonectomy)は、播種が存在する壁側腹膜および臓側腹膜を領域的・系統的に切除する手術であり、腹膜偽粘液腫に対する根治的治療の一環として欧米を中心に発展してきました。この治療概念では、肉眼的に確認できない微小な粘液産生病変の制御も含めて治療効果を高めることを目指します。
  2. 病変評価と症例選択の重要性
    治療成績を左右する最も重要な要素は、病変の広がりを正確に評価し、適切な症例選択を行うことです。特に小腸への病変の広がりは、完全切除の可否を大きく左右します。病変が小腸に広範に及ぶ場合には、短腸症候群などの重篤な合併症を避ける観点から、根治を目的とした手術が困難となることがあります。
  3. 術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)の位置づけ
    腹膜偽粘液腫では、完全減量手術に加えて、術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)が併用されます。HIPECは、肉眼的に切除をしたのちに、加温した抗がん剤溶液を腹腔内に循環させることで、2.5mm以下の病変あるいは肉眼的には確認できない微小病変の制御を目的とする治療法です。
    本邦では保険適用外治療となるため、適応や実施体制、費用負担について慎重な検討が必要ですが、腹膜偽粘液腫においては、完全減量手術と組み合わせた治療戦略の一部として国際的に位置づけられてきました。当センターでは、病変の広がりや全身状態を踏まえ、治療の妥当性を慎重に検討しています。
  4. 先進医療Bにおける治療成績と安全性評価
    当センターでは、腹膜疾患に対する先進医療Bとして、完全減量手術(CRS)と腹腔内温熱化学療法(HIPEC)を組み合わせた治療を実施し、その安全性および有効性について前向きに評価を行ってきました。
    本試験における主要評価項目である有効性評価は、治療プロトコールを満たした60例を対象として解析されました。HIPECを含む腹腔内治療を完遂した症例において、5年全生存率は76.7%に達し、事前に設定された期待値70%をいずれも上回る成績が得られました。これらの結果は、既存の欧米主要施設から報告されている治療成績と比較しても遜色のないものでした。
     一方、副次評価項目である安全性評価では、重篤なGrade3以上の術後合併症は27.4%に認められましたが、術死は認められませんでした。これは、腹膜切除を含む大がかりな外科治療としては許容範囲内の安全性であり、周術期管理体制の有効性を示す結果と考えられます。
    本先進医療の結果から、適切な症例選択と厳格な周術期管理のもとでは、本治療戦略が長期生存が期待できる治療選択肢となり得ることが示唆されました。一方で、通常の外科手術よりもやや合併症が多い傾向があり、経験のある限られた施設および医師のもとでの治療が推奨されました。現在、本治療の保険収載に向けた準備を進めております。

外部リンク:メディカルノート「腹膜偽粘液腫とは」

大腸がん腹膜播種

大腸がんの腹膜播種は、原発巣からがん細胞が腹腔内にこぼれ落ち、腹膜面に広がる病態で、進行大腸がん(ステージIV)に相当します。従来は治療が困難と考えられてきましたが、近年では症例を選択した外科治療の意義が注目されています。
当センターでは、CTやPET検査などの専門的画像診断に加え、必要に応じて診査腹腔鏡を行い、腹膜播種の広がりを正確に評価しています。そのうえで、全身化学療法を基本としつつ、患者さん一人ひとりの病状に応じた最適な集学的治療方針を慎重に検討しています。

  1. 標準治療と治療方針の変化
    大腸がんの腹膜播種に対する標準治療は、現在も全身化学療法(抗がん剤治療)です。しかしながら、本邦の大腸癌治療ガイドラインにおいて、従来は外科切除に積極的ではありませんでしたが、2019年版以降、完全切除(本邦においては播種巣切除)が可能な場合には切除を検討することが推奨されるようになりました。
  2. 本邦における播種巣切除と欧米・当院における腹膜切除の違いについて
    「腹膜播種に対する外科治療」として行われてきた手術には、大きく分けて播種巣切除と腹膜切除の2つの考え方があります。
    a) 播種巣切除とは
    播種巣切除とは、肉眼的に確認できる腹膜播種病変を部分的に切除する手術を指します。従来の本邦の外科診療では、腹膜播種が限局している場合に、症状緩和や腫瘍量減少を目的として行われてきました。本邦でしか行われていない術式です。
    この方法では、播種病変の存在する部分のみを切除するため、腹膜全体に潜在的に存在する微小病変までは除去できない、見落とす可能性があるという限界があります。
    b) 腹膜切除とは
    腹膜切除(peritonectomy)は、腹膜播種が存在する部位の壁側および臓側腹膜そのものを領域的系統的に切除する手術であり、播種巣切除とは異なる治療概念に基づいています。
     この手術では、播種が存在する腹膜領域を切除することで、肉眼的に確認できない微小な播種病変の制御も目指します。欧米では、腹膜播種に対する根治的治療の一環として発展してきました。
    c) 両者の違いと治療上の位置づけ
    播種巣切除は、比較的侵襲が小さい一方で、治療効果は限定的であり、根治を目的とした治療とは位置づけられていません。一方、腹膜切除は高度な外科手技と周術期管理を要する大がかりな手術であり、適応は厳密に選択されますが、条件を満たす症例では長期生存が期待できる治療戦略とされています。
    当院では、腹膜播種の広がり、他臓器転移の有無、全身状態などを総合的に評価したうえで、腹膜切除による治癒切除を目指しています。
  3. 腹膜播種の評価および症例選択の重要性
    治療方針の決定にあたっては、腹膜播種の広がりを正確に評価することが重要です。欧米では、腹腔内を詳細に評価する Peritoneal Cancer Index(PCI) が用いられ、日本のP分類よりも具体的な指標として治療適応の判断に活用されています。特に小腸への播種の程度は、切除可能性を左右する重要な要素とされています。したがって、CTやPETに加えて、当センターでは診査腹腔鏡を積極的に行い、病変の肉眼的確認、PCI評価、小腸病変の評価、切除の可否を判断しております。
  4. 術中腹腔内温熱化学療法HIPECに関する最新知見
    腹膜切除と組み合わせて行われる術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)は、腹膜偽粘液腫と同様に本邦において保険外の治療法となります。従来より各国でCRS+HIPECによる治療が進められてきましたが、2021年にフランスより報告された国際共同第III相試験(PRODIGE 7 trial)において、腹膜切除単独と比較して明確な生存利益の上乗せ効果は示されませんでした。しかしながら、PCIが11~15点の方にはHIPECの上乗せ効果を示唆される結果でした。いずれにせよ、HIPECの併用にかかわらず、腹膜切除そのものによって、5年生存率が約40%に達することが報告されています。
    これらの結果を踏まえ、現時点では大腸がん腹膜播種に対するHIPECの有効性は確立しておりませんが、現在国際的な臨床試験により再検証されています。
    DISCOVER / DISCO Trial(オランダ)
    腹膜切除(CRS)単独と、CRSにオキサリプラチンを用いたHIPECを併用した治療を比較し、HIPECの上乗せ効果を再検証する試験です。先行研究(PRODIGE 7 trial)の結果を踏まえ、対象患者や治療条件を再設定した検証が行われています。
    GECOP-MMC Trial(スペイン)
    腹膜切除(CRS)単独と、マイトマイシンC(MMC)を用いたHIPEC併用治療を比較する試験です。使用薬剤の違いによる治療効果の差に注目し、HIPECの有効性を検証しています。
    これらの試験は、腹膜切除そのものの意義を前提としつつ、HIPECを併用することによる追加効果が本当に存在するのかを科学的に検証することを目的としています。
    当センターでは、特定臨床研究法*による規制やPRODIGE7 trialの結果を踏まえて、現時点では腹膜切除のみによる治癒切除を目指し、HIPECを併用しておりません。国際的な臨床試験や最新のエビデンスを継続的に注視しながら、患者さん一人ひとりにとって最適な治療方針を検討しています。
    *特定臨床研究法
    特定臨床研究法の施行により、従来は医療機関の裁量で実施されていた一部の保険適用外治療についても、研究としての位置づけや第三者機関による審査が求められるようになりました。その結果、治療の安全性や信頼性は向上する一方で、新規治療や先進的治療を実施するまでに、より多くの検討や準備を要するようになっています。
  5. 専門施設での評価とセカンドオピニオンの重要性
    大腸がん腹膜播種の治療では、化学療法、外科治療、支持療法を含めた集学的判断が不可欠です。切除の可能性があるかどうかを含め、腹膜播種治療の経験を有する専門施設での評価や、セカンドオピニオンを受けることが重要とされています。

外部リンク:メディカルノート「大腸がん腹膜播種とは」

胃がん腹膜播種

腹膜播種は、進行した胃癌、とくに若い女性に多くみられる「スキルス胃がん」では、この腹膜播種が起こりやすく、病気の経過に大きく影響します。一般に、胃がんの腹膜播種は、大腸がんや卵巣がんに比べて悪性度が高く、発症後早期に腸の通りが悪くなる(腸閉塞)、腎臓に負担がかかる(水腎症)、おなかに水がたまる(腹水)などの症状を引き起こし、日常生活に大きな支障をきたす状態になることもあります。これまで、抗がん剤治療や免疫療法、手術、温熱化学療法など、さまざまな方法が試みられてきました。しかし、現時点では「これが決定的な治療法」と言えるものはまだ確立されておらず、腹膜播種は治療が難しい病気のひとつとされています。そのため、症状をできるだけ抑えながら、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療を行うことがとても重要です。

  1. 標準治療
    一般に、胃がんの腹膜播種は、手術によってがんをすべて取り除くことは難しく、たとえ手術で目に見えるがんを取り切れたように見えても、手術後に再び病気が現れることが多いことが分かっています。そのため、腹膜播種に対しては、外科的治療で十分な効果を期待することは難しいと考えられています。このため、腹膜播種が見つかった場合には、通常は胃を切除する手術は行わず、抗がん剤による治療(化学療法)が治療の中心となります。現在行われている治療としては、点滴による抗がん剤治療や、飲み薬による全身の治療が一般的です。これまでの報告では、こうした治療を受けた場合の生存期間の中央値はおよそ1年程度とされています。近年、新しいタイプの抗がん剤(分子標的薬)が使われるようになり、進行した胃がんや再発した胃がん全体では、治療成績の改善がみられるようになってきました。しかし、これまでの臨床試験の結果からは、腹膜播種を伴う患者さんに対しては、効果が十分とは言えない可能性が示されています。また、大腸がんや卵巣がんと同様に、腹膜切除や温熱化学療法も試みられてきましたが、がんの広がりがごく限られた場合を除いては、十分な効果を期待することは難しいと考えられています。
  2. 腹腔内化学療法
    (1)考え方
    腹腔内化学療法とは、「腹腔ポート」と呼ばれる器具を使って、抗がん剤を直接おなかの中(腹腔内)に注入する治療法です。おなかの中に広がっているがんに、抗がん剤を直接触れさせることができるため、理にかなった治療法として、以前から研究されてきました。これまで使われてきた抗がん剤の多くは、水に溶けやすい性質を持っており、腹腔内に投与しても短時間で血液中に吸収されてしまうため、十分な治療効果が得られにくいという課題がありました。一方、パクリタキセルやドセタキセルといった「タキサン系抗がん剤」は、脂に溶けやすい性質を持っています。そのため、おなかの中に投与すると、長時間にわたって高い濃度が保たれ、腹膜に広がったがんの表面から内部へと薬がしみ込むように作用し、がん細胞を傷害することが分かってきました。この基礎研究の成果をもとに、点滴による全身の抗がん剤治療にパクリタキセルの腹腔内投与を組み合わせた治療法について、我が国にて複数の臨床試験が行われ、良好な治療成績が報告されています。
    (2)治療の流れ
    まず、腹腔鏡(小さなカメラ)を用いておなかの中の状態を確認し、抗がん剤を注入するための腹腔ポートを腹部の皮膚の下に留置します。腹腔ポートは、直径約3cmの小さな器具で、皮膚の上から細い針を刺して安全に抗がん剤を注入するための「受け皿」の役割をします。ポートからは、やわらかい管(カテーテル)が腹腔内へとつながっており、ここを通って薬剤が注入されます。治療当日は、まず生理食塩水を約1時間かけて腹腔内に注入し、同時にアレルギーや吐き気を予防するための薬を点滴で投与します。その後、生理食塩水に溶かしたパクリタキセルを、さらに約1時間かけて注入します。合計で約1リットルの生理食塩水が腹腔内に広がり、抗がん剤が腹膜播種の病変と直接接触します。患者さんの状態にもよりますが、多くの場合、この治療は外来通院で行うことが可能です。治療後の生活や食事に特別な制限はありません。大量の腹水がたまっている場合には、腹腔ポートの代わりにカテーテルを留置して治療を行うこともあります。これまでの報告では、比較的高い治療効果が得られており、治療によってがんの進行が抑えられた患者さんの中には、その時点で胃がんを切除する「コンバージョン手術」が可能となるケースも出てきています。
    (3)副作用・安全性について
    腹腔内化学療法は、全身の抗がん剤治療と安全に組み合わせることができる治療法です。ただし、腹腔ポートに関連した合併症として、感染やカテーテルの詰まりなどが起こることがあり、その場合にはポートの抜去や交換が必要になることがあります。
    (4)今後について
    2025年現在、パクリタキセルの腹腔内投与は、日本ではまだ保険適用とはなっておらず、自費診療または臨床研究として行われている状況です。しかし、現在、海外でこの治療法の有効性と安全性を確認するための複数の臨床試験が進められており、今後、腹膜播種に対する有望な治療選択肢の一つになることが期待されています。

卵巣がん腹膜播種

巣がんは、発見時すでに腹膜播種を伴っていることが多い疾患であり、多くの症例が進行期(FIGOⅢ~Ⅳ期)に相当します。腹膜播種は卵巣がんの進展様式の中核をなす病態であり、腫瘍が腹腔内全体に広がることで治療が難しくなる要因となります。近年、分子標的薬の登場など薬物療法の進歩により予後は改善しつつありますが、依然として治療抵抗性を示す症例や再発例も少なくありません。
当センターでは、CTなどの画像診断を用いて腹膜播種の分布や広がりを詳細に評価するとともに、必要に応じて外科・産婦人科・泌尿器科など多診療科が連携し、治療方針を検討しています。そのうえで、患者さん一人ひとりの病状や治療歴、将来の生活設計も考慮した集学的治療を行っています。

  1. 標準治療と治療方針の考え方
    卵巣がん腹膜播種に対する治療の基本は、外科治療と薬物療法を組み合わせた集学的治療です。特に、完全切除を達成することが予後を最も大きく左右する因子であることが広く知られており、初回治療時あるいは化学療法後の腫瘍減量手術において、可能な限り腫瘍を残さない手術が重要とされています。
  2. 腹膜播種に対する外科治療の位置づけ
    卵巣がんでは、腹膜播種に対する外科治療として、腫瘍減量手術の一環として腹膜病変の切除が行われます。病変が腹腔内に広範に存在する場合には、単なる腫瘍摘出にとどまらず、腹膜切除を含めた広範な手術操作が必要となることもあります。
    これらの手術は侵襲が大きく、高度な外科手技と周術期管理を要しますが、条件を満たす症例では長期生存や治療効果の向上が期待できる治療戦略と考えられています。当センターでは、外科医・産婦人科医が連携し、完全切除の可能性を慎重に評価したうえで手術適応を判断しています。
  3. 腹膜播種の評価と適切な治療計画の重要性
    卵巣がん腹膜播種においても、治療成績を左右する鍵は「正確な病変評価」と「適切な治療計画」になります。腹膜播種の分布や量、小腸への病変の広がりの正確な評価は、完全切除の可否を判断するうえで重要な指標となります。これらを総合的に評価し、薬物療法を組み合わせた適切な治療計画を立てます。治療に伴う侵襲や患者さんのQOLとのバランスに配慮しながら、最大限の効果が得られる治療を選択することが重要です。
  4. HIPECを含む治療戦略について
    卵巣がん腹膜播種に対しては、腹膜切除と組み合わせて術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)が検討されることがあります。卵巣がん腹膜播種は、無作為比較試験(RCT)において、完全減量手術(CRS)にHIPECを併用することによる予後改善効果が示された数少ない疾患の一つです。
    この結果を踏まえ、国際的には、適切に症例を選択したうえでHIPECを治療戦略の一つとして位置づける考え方が広がっています。
    本邦では、卵巣がん腹膜播種に対するHIPECは保険承認されていませんが、卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン(2025年版)において、「臨床試験として実施することを提案する」ことがエビデンスレベルBとして示されています。当センターでは、これらの国際的エビデンスおよび国内外の臨床現状を踏まえつつ、患者さんの安全性と治療の妥当性を最優先に、卵巣がん腹膜播種に対するHIPEC併用治療の臨床研究について検討を進めています。

膵がん腹膜播種

膵がんは、数あるがんの中でも進行が早く、最も治療が難しいがんの一つとされています。とくに、がんが腹腔内に広がる「腹膜播種」を伴う場合には、これまで有効な治療法が限られており、治療成績は厳しいものと報告されてきました。

このような状況の中で、近年、日本において、これまで胃がんの腹膜播種に対して効果が期待されてきた「パクリタキセルの腹腔内投与」を、膵がんの腹膜播種を有する患者さんにも応用し、その有効性と安全性が検討されました。その結果、これまでの標準的な治療と比べて、病気の進行が抑えられ、一定の治療効果が得られる可能性が示されてきています。

この結果を受けて、現在は、より多くの患者さんを対象とした大規模な臨床試験(第3相試験)が進められており、この治療法が将来的に標準治療として確立できるかどうかが検証されています。まだ、研究段階の治療ではありますが、これまでこれといった治療法がなかった膵がん腹膜播種に対して、新たな可能性を広げる治療として期待されています。

腹膜悪性中皮腫

腹膜悪性中皮腫は、腹膜に発生する稀少な悪性腫瘍であり、診断時にはすでに腹腔内に広く病変が進展していることが多い疾患です。進行は比較的緩徐な場合もありますが、腹膜全体に腫瘍が広がることで腹水貯留や腸閉塞などを来し、治療が困難となることがあります。

腹膜悪性中皮腫は、同じ中皮細胞由来の腫瘍である胸膜悪性中皮腫と比べても症例数が少なく、診断や治療に高度な専門性が求められます。そのため、一般診療の場では十分な治療経験が蓄積されにくいという課題があります。

  1. 標準治療と本邦における現状
    胸膜悪性中皮腫に対しては、本邦において化学療法および胸膜切除術が保険診療として位置づけられています。一方で、腹膜悪性中皮腫に対しては、現時点では本邦で保険収載されている標準的治療が存在しないのが現状です。そのため、腹膜悪性中皮腫の治療は、国内外の限られた専門施設において、症例ごとに治療方針を慎重に検討しながら行われています。全身化学療法が選択されることもありますが、治療効果には限界があり、長期的な予後改善は容易ではありません。
  2. 腹膜切除を含む外科治療の位置づけ
    近年、腹膜悪性中皮腫に対して、完全減量手術(CRS)と術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)を中心とした外科治療を行うことで、長期生存が期待できる症例があることが報告されるようになってきました。
     欧米では症例を選択しつつ専門のセンターで行うことで、予後改善を期待し得る治療選択肢と位置づけられています。当センターでは、腹膜病変の広がり、他臓器転移の有無、全身状態などを総合的に評価したうえで、外科治療の適応を慎重に判断しています。
  3. 腹膜播種の評価と症例選択の重要性
    腹膜悪性中皮腫の治療成績を左右する最も重要な因子は、組織型と病変の程度(PCI)、完全切除(CC-0)が達成できるかどうかです。そのため、治療方針の決定にあたっては、CTなどの画像診断に加え、必要に応じて診査腹腔鏡を行い、腹膜病変の分布や量、小腸への病変の広がりを正確に評価することが不可欠です。無理な外科治療を避けつつ、治療効果が期待できる症例を慎重に選択することが、患者さんの安全性と予後の両立につながります。
  4. HIPECを含む治療戦略について
    欧米においては腹膜切除と組み合わせて術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)が症例により行われ、比較的良好な成績が報告されています。一方で、本邦においては他疾患と同様で、HIPECは保険診療として確立されておらず、治療の位置づけや適応については、エビデンスや制度面を踏まえた慎重な検討が必要です。当センターでは、安全性と妥当性を最優先に、国内外の最新の知見を踏まえながら治療戦略を検討しています。
  5. 専門施設での評価とセカンドオピニオンの重要性
    腹膜悪性中皮腫は稀少疾患であり、診断および治療には専門的な知識と経験が不可欠です。治療方針の決定にあたっては、腹膜疾患診療の経験を有する専門施設で十分な評価を受け、必要に応じてセカンドオピニオンを活用しながら、患者さん一人ひとりに適した治療戦略を検討することが重要です。当センターでは、多診療科が連携し、診断から治療、支持療法までを含めた集学的医療を通じて、腹膜悪性中皮腫に対する最適な医療の提供を目指しています。

セカンドオピニオン

当センターでは、腹膜悪性疾患に関するセカンドオピニオンを受け付けています。
他院で治療中の患者さんや、治療方針についてお悩みの方に対し、専門的な立場から医学的意見を提供しています。
詳しくはセカンドオピニオンのご案内をご参照ください。